2024年7月27日土曜日

論文「「さわれない手、100年前の声」を記録する」

 ◎論文



昨年7〜10月にαMで開催した個展「さわれない手、100年前の声」を論文にまとめました。

論考、記録写真、資料などを交えながら、一年前の展覧会を跡付けます。

論考は主に、模写の創造性とか、潜勢力について書いています。


ところで、2017年くらいから、近代の日本画家(鏑木清方、安田靫彦、小林古径など)の仕事——主に、素描、模写を繰り返し見て、幾度もテキストを読み、そして絵(模写含む)を描いて……というサイクルを繰り返していて、いわば、同じところをグルグル周遊しているのですが、こうやって、同じところをなぞる感じが絵画制作における「模写」のあり方に近いのかな、と感じるようになりました。新しい場所に行くだけでなくて、同じ場所にとどまることの創造性や潜勢力があるのだ、というような。

2023年11月3日金曜日

『ことばと vol.07』

◎雑誌装画・挿絵



装画・挿絵を担当した『ことばと』が発売になりました。順次、全国の書店に並びます。

2020年4月に創刊した『ことばと』ですが、この7号をもって第1期終了とのこと。デザイナーの戸塚泰雄さん(nu)と7冊作ってきましたが、そのときどきのテーマに応答して、あれこれ考えながら、毎号ギリギリまで制作を続けました。また、ぼく自身の作品制作を新しく展開させるきっかけにもなりました。

この最終号は創刊号と対のような関係にもなっているので、手元にある人は比べてみてください。

挿絵としては、大前粟生さん、町屋良平さんの作品に携帯とカーテンを描きました。その他にもいくつか。

分厚いです!



文学ムック「ことばと」vol.7

定価:本体1,800 円+税 
A5、並製、368 ページ
ISBN978-4-86385-600-4 C0495

編集長/佐々木敦

ロゴマーク/石黒正数

表紙・本文デザイン/戸塚泰雄

装画・挿絵/近藤恵介

2023年9月19日火曜日

佐賀大学美術館開館10周年記念展 「響きあうアート —美の拡がり、美術の拡がり—」

◎展覧会(グループ展)

教員をしている佐賀大学の大学美術館が開館10周年とのことで、記念展に出品しています。

芸術地域デザイン学部のアーティスト(教員)と、他学部の研究者が連携することで、展示を作りました。

ぼくは哲学者の後藤正英さんとペアになりました。

ハンドアウトのために短いテキストを書いたので、転載します。

それと、9/17(日)に予定していた後藤さんとのトークですが、諸事情から延期になりましたのでお間違いなく。10/9(月・祝)になると思います。



展覧会をきっかけに始まった交流は、絵画と哲学を間に挟み、継続的に対話を重ねるものになった。そのため、飛沫を飛ばし合うような直接性はなく、近くて遠い距離がいつもあった。交わす言葉、LINEの白と緑の吹き出し、ペンの筆跡と絵具の筆触、メールに添付する写真やテキストを、いつも少し遠くに投げた。絵画や哲学は、コミュニケーションの道具として優れているわけではなく、どちらかといえば日常的な交流を切断し、新たな繋ぎ方を発明するようなやっかいなものだ。ぼくと後藤さんの交流の今後は、いま作りつつある作品の成否にかかっている。

最後に、後藤さんに倣って、ぼくも引用する。

 

展覧会の画はいつもぎりぎりにしか描けません。毎日六時頃に起きてこのアトリエ通いです。*1

 

*1小林古径「庭の一隅」『小林古徑 作品と素描Ⅰ』1983年、光村図書出版、211頁における『美之国』1932年9月号の引用。



佐賀大学美術館開館10周年記念展

「響きあうアート —美の拡がり、美術の拡がり—」


会場:佐賀大学美術館

会期:2023年9月9日(土)-10月22日(日)

場所:佐賀大学美術館

時間:10:00-17:00(入館は16時30分まで)

休館日:月曜日 *祝日の場合翌火曜日休館


10周年記念展特設サイト


出品作家

柳健司(美術家)×橘基(物理学者)

土屋貴哉(美術家)×村久保雅孝(心理学者)

近藤恵介(画家)×後藤正英(哲学者)

阿部浩之(美術家)×藤村美穂(農村社会学者)


企画

花田伸一(キュレーター) 


関連イベント

9月10日(日)「宇宙のはじまり、アートのはじまり」柳健司×橘基

9月17日(日) 近藤恵介×後藤正英 *10/9に延期

10月1日(日) 阿部浩之×藤村美穂

10月15日(日) 土屋貴哉×村久保雅孝

1021日(土)「10年後の大学美術館に向けて」

2023年8月14日月曜日

そこ もの こと

◎展覧会(グループ展)


MA2ギャラリーでのグループ展です。

4名の参加作家で継続的に話し合いながら展覧会を作りました。

ぼくは過去作を読み換えるような作品のあり方を考えました。そして、これまでしてこなかったことを、今回の展覧会のテーマに引っ掛けて試みています。

また、4名の作家がそれぞれテキストを書いています。ぼくのテキストは下に転載します。

印刷物のデザインは林頌介さん。



「そこ もの こと」

小瀬村真美 近藤恵介 髙柳恵里 松尾孝之


会場:MA2 GALLERY

会期:2023年8月4日(金)-9月2日(土)

日、月、祝日 休廊(火曜は事前メールアポイント制)

時間:13:00~18:00

*8月13日(日)-21日(月)は夏季休廊


https://www.ma2gallery.com


オープニングトーク:8月4日(金)16:00-

アーティストトーク:

8月31日(木)15:00 小瀬村真美/16:30近藤恵介

92()15:00髙柳恵里/ 16:30 松尾孝之



近藤恵介


今回の展覧会のために制作する作品に関するコメントを書こうとするが、いつにも増して全然書けない。この書けなさは、なぜかというと、断片を寄せ集めて、ドローイング帖に文字とスケッチが対等な関係で混ざり合ったものとして記されている、部屋の隅に溜まったホコリのような作品プランはしっかりあるのだが、そのプランが、そのドローイングの散逸している状態が、好ましく思えていて、それを文章でなぞるように説明すると、 散逸した状態が整頓されるように思えてできないし、混乱したいいバランスからどのような作品ができるのかは、展覧会に来ればみることができる、としか言えない。 2016.3.20

 

以上は、2016年に参加したMA2ギャラリーでのグループ展「絵の旅」に際して書いた文章だ。ブツブツ途切れながら、ゆるやかに繋がる文章のあり方を、当時の作品制作の方法と重ねながら書いたことを読み返して思い出した。この7年間で世界もぼくも大きく変わったが、文章はそのまま、このたびの展覧会「そこ もの こと」のステートメントとして読み換えることができるように思われる。それは同時に、当時制作した作品を読み返し、読み換える可能性とパラレルかもしれない。(2023.7.6

αMプロジェクト2023–2024 「開発の再開発 vol. 2 近藤恵介|さわれない手、100年前の声」

◎展覧会(個展)


今週末7/29(土)より、ギャラリーαMでの個展「さわれない手、100年前の声」がはじまります。

2年間のプログラム「 αMプロジェクト2023–2024|開発の再開発 」の第2回目で、ゲストキュレーターは石川卓磨さん(美術家・美術批評)です。

日本画家・小林古径のちょうど100年前の模写《臨顧愷之女史箴卷》 の模写(模写の模写)をすることから展覧会を作りはじめ、不確かな場所としての絵画を考えました。かなり絵に無理をさせています。

石川さんのテキスト「模写のクオリア」をギャラリーのwebサイトで読むことができます。ぼくのテキスト「さわれない手、100年前の声」はこちらに転載します。

初日の18時からは石川さんとのトークも予定しています。

印刷物のデザインは岡田和奈佳さん。



αMプロジェクト2023–2024 

「開発の再開発 vol. 2 近藤恵介|さわれない手、100年前の声」

 ゲストキュレーター:石川卓磨(美術家・美術批評)


会場:gallery αM

会期:2023年7月29日(土)-10月14日(土)日月祝休 入場無料

時間:12:30~19:00

*8月13日(日)-28日(月)は夏季休廊


協力:平和紙業株式会社、株式会社竹尾


展覧会詳細


トークイベント:729日(土)18:00-
近藤恵介×石川卓磨



さわれない手、100年前の声

近藤恵介

 日本画家・小林古径は無口の人として知られる。古径のポートレイトを撮影した写真家の土門拳は撮影時のやり取りを懐古して「まるで壁の向う側にいる人と話しているみたいだった*1」と書き残している。「壁の向う側にいる」ように感じるのは、古径の絵を見ていても同じだ。絵はひたすら無口で、無表情だ。見てだめなら、耳を澄ましてみると、かろうじて唸るような低い声は聞こえる気がするが、意味は結ばない。ふと、壁の向こうには誰もいないのかもしれないと考える。壁越しの交流は、これ以上壊れない関係を築くことでもある。土門が「女のようにふっくらとした手が印象的だった*2」と書いたその手に触れることはできないけれど、ノックをしてみる。トントン。

 ちょうど100年前、大正12年(1923)4月から5月にかけて、古径は同朋の画家・前田青邨と大英博物館に通い伝顧愷之筆《女史箴図巻》を模写した。青邨は「原画が鮮明なものであればともかく、真黒で非常に難しい。これ以上難しいものはないくらい難しく、徹底的に不鮮明である*3」とふり返ったが、2人は薄暗く煤煙の落ちる部屋で、徹底的に不鮮明な画巻を凝視し、切れ切れの線を綯うように引いた。青邨の速度をともなう張りのある線に比べ、古径の線はどこか頼りなく、不鮮明さをも写している。
 模写に向き合うある日のことを「描き疲れて博物館を出ると、小林君が突然、突拍子もない大声で「ああ、勉強になったな」とただ一こと叫びました*4」と青邨は回想した。無口の古径の叫びは不鮮明な原画に向けられたものだが、その声は100年後にも届く。
(2023年5月)

*1 土門拳「無口の人」『三彩』87号、1957年5月、27頁
*2 同上
*3 前田青邨「「女史箴図巻」の模写」『作画三昧—青邨文集—』新潮社、1979年、188頁
*4 前田青邨「兄・小林古径」『作画三昧—青邨文集—』新潮社、1979年、120頁

2023年4月2日日曜日

展覧会の会期延長

◎展覧会(2人展)


開催中の展覧会「あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻」の会期が延長になりました。
図録も販売中です。


①オンライン展覧会
「あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻」展
会期:2023年3月1日(水)10:00〜
4月10日(月)15:00
会場:川崎市市民ミュージアムWenサイト内「the 3 rd Area of “C”―3つめのミュージアム」

オンライン展


②実会場展覧会

近藤恵介・冨井大裕「あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻」

会期:2023年3月9日(木)〜4月9日(日)11:00〜19:00(日曜日は12:00〜18:00)

定休日:月・火・祝
会場:LOKO GALLERY

詳細


③書籍

タイトル:あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻
作品・執筆:近藤恵介、冨井大裕
執筆:佐藤美子、杉浦央子、羽生佳代(川崎市市民ミュージアム学芸員)、成相肇(東京国立近代美術館主任研究員)、林卓行(美術批評・東京藝術大学准教授)
デザイン:戸塚泰雄(nu
定価:本体1,800円(税別)
判型:A5判変形/88ページ/並製
テキスト:日本語/英語(一部)
ISBN978-4-908062-51-3 C0070
発行:HeHe/ ヒヒ
発売日:20233月中旬発売予定

2023年3月18日土曜日

書籍『あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻』

◎書籍(展覧会図録)


本ができました。

開催中の展覧会「あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻」の図録です。

2010年の冨井さんとの2人展「あっけない絵画、明快な彫刻」(gallery countach)から現在までの共作ーーの変化の記録と、そのときどきの近藤・冨井さんのテキスト、学芸員・修復師・批評家によって書き下ろされたテキストで構成されています。

作品集『12ヶ月のための絵画』と同じHeHeから出版されます。

作品の状態が変わること、それが続くことがが2010年からのテーマでしたが、被災によりそれがより強調されました。それを、生きている作家としてどのように考えて、何をしたかの記録です。


書籍情報

あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻
作品・執筆|近藤恵介、冨井大裕
執筆|佐藤美子、杉浦央子、羽生佳代(川崎市市民ミュージアム学芸員)、成相肇(東京国立近代美術館主任研究員)、林卓行(美術批評・東京藝術大学准教授)
デザイン|戸塚泰雄(nu
定価|本体1,800円(税別)
判型|A5判変形/88ページ/並製
テキスト|日本語/英語(一部)
ISBN978-4-908062-51-3 C0070
発行|HeHe/ ヒヒ
発売日|20233月中旬発売予定