2011年8月2日火曜日

「小さい良い絵画」 須藤由希子|近藤恵介

                             photo : 川村麻純

◎展覧会情報

この度、岡山のサテライトにて、画家・須藤由希子さんとの2人展を開催する運びとなりました。

新作7点に加え、須藤さんと共同で制作した作品も出品します。
また、本展にあたり、僕と須藤さんとがそれぞれテキストを書きました。展覧会と出品される作品のトーンが少しは伝わるかと思います。

近くにお越しの際は、是非お立ち寄りください。

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小さい良い絵画
須藤由希子|近藤恵介
2011年8月13日(土)- 9月26日(月)
火曜定休 入場無料
オープニング・レセプション:2011年8月13日(土) 17-19時

会場:Satellite(岡山)
〒700-0026 岡山市北区奉還町2-8-17
tel:086-250-2550
web:www.satelliteee.com

企画:Satellite
協力:Gallery Countach、TAKE NINAGAWA

press release
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「小さい良い絵画」展によせて、もしくは須藤さんとのこと  近藤恵介

須藤由希子さんと一緒に展覧会をすることになり、実際にお会いしたり、メールでのやり取りを通して、どのような展覧会にするのかに関するお互いの考えを交換し合いました。画家の友人のなかでも須藤さんとは割合付き合いも長く(6年くらいになるでしょうか)、これまでにもグループ展でご一緒したりと縁を保ちつつこれまできました。ですが、お互いの制作に対する姿勢やそれに付随することに関してはほとんど話した事がなく、今回初めてゆっくりと話す機会に恵まれ、いろいろと知らなかったことを知ることができました。
作家の言葉を聞いた後に作品を観ると印象がガラリと変わる事がしばしばありますが、須藤さんの絵に関してはこれ迄の見え方とほぼ変わりないように思います。というとやや語弊があって、変わりないというより、ちょっと文章にするのが難しいのですが、位相が変化し見え方が一変するようなことはなく、見え方が少し広がった、という印象です。もう少し言葉を費やすならば、例えば絵画を観賞するときは絵の前に任意の距離を置いて立ちます、そのときに一歩前に出たり後退したり左右に動いてみると見え方が少しずつ変化しますが、その行動範囲が少し広くなった、というような変化の具合です。非常に抽象的な説明で申し訳ないのですが、この表現が最も僕の感じた感覚に近いのです。
須藤さん自身の作品に関する言及は作品の説明にはなっていなくて、絵を描いているときの時間や身体の感覚で言葉を選び、それが今は会話になっているのですが、それと同じような感覚でもって絵を描いているのではないかと感じました。その場では絵としては表出しないけれど、あたかも新作の絵を描いている行程に立ち会ったかのような実感を得たのです。作家から自作についての話を聞くと、どうしても作品の説明や解説になりがちなのですが、須藤さんの場合そのような方向へは話が向かないのです。そんな時間を過ごしていると、なぜか妙に清々しい気がしました。
会話やメールにしばしば出てくる言葉として「いい絵/よい絵」 (僕は「いい」須藤さんは「よい」)があり、まるで共通語のように話していたのですが、よくよく考えると齟齬があったのではないかと思います。「いい絵」という表現は随分曖昧で、とても解釈の幅の広い言葉です。「いい絵」に含まれるニュアンスは特別ポジティブでもネガティブでもなく、割と平坦であるからこそ、頻繁に使われるのかもしれません。実は何も言っていないに等しい状態というか、何も始まっていないゼロ地点というか。どれほど意識してかは分かりませんが、僕は以上のような意味合いで使用していたと思います。それに対して、須藤さんの「よい絵」には明らかにポジティブなニュアンスが含まれていました。「よい絵」と思える作品を観て、その価値を直感で判断して、それらの思いをとりあえず「よい」という言葉に封じ込め自作に響かせる。画家の態度として非常に正しいのです。須藤さんがそのようなことを考えていたかは別にして。
須藤さんと話していて沸いてきた感慨は、「いい絵/よい絵」というような曖昧な言葉をとりあえず信じてそれを目指して楽しく絵を描く、という割とシンプルな動機で制作を進めても大丈夫なのではないか、という思いでした。おそらく僕もそのようなことを考えたりしていて、須藤さんとの会話の中から出てきた言葉によってこれ迄考えていたことが整理され、そういうことだったのか、と気付くに至ったということだと思います。僕の考えていたことと須藤さんの考えていたことのある部分が溶け合ってその場の会話のトーンをつくった訳ですから、そんな感じの展覧会になるのではないかと想像しています。
これから僕と須藤さんは、生活の中から時間を捻出し、臆することなく絵を描き、絵を描く困難さを乗り越え、何とか展覧会に漕ぎ着ける、ということを先の2ヶ月間続けるのです。

'11.5.30