2018年4月23日月曜日

「絵画の現在」展 記録写真

2018年1-2月に府中市美術館で開催された「絵画の現在」の記録写真です。木村彩子さんとの共作を出品しました。

また、1月21日の木村彩子さんのギャラリートークの日に、共作者として少し話をしようと思っていたのですが、残念ながら参加できなかったので、手紙を書いて代読してもらいました。制作の経緯などの作品解説になっているので、少し加筆修正したものをここに残しておきます。



展覧会データ:
絵画の現在
会期|2018年1月13日(土)-2月25日(日)
会場|府中市美術館

展示風景(撮影:柳場大)


《画家のサイレンスの部分》 2017
シーツ(麻布)に油彩、膠彩、ペン、色鉛筆/木材、クリップ、金具
2600×1800mm(各シーツサイズ)
近藤恵介・木村彩子

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ギャラリートークに寄せた手紙の全文 近藤恵介

 こんにちは、近藤恵介です。今日はトークイベントに参加できず、とても残念に思っています。ただ、せっかくの機会ですので、他者の声を借りて、この共作について少し話をさせてもらいます。

 この作品は2015年に木村さんと2人展をして以来の共作となります。
 見てのとおり、絵の具が付着したシーツが2枚重なっています。手前の色のついた方は、割と面倒な手順を踏んで描かれています。まず最初に布を16等分(8つ折り)にして、その状態でひと区画ずつ、表裏32面を、近藤→木村の順に描いていきました。 基本的には近藤は日本画の画材、木村さんは油彩を用いています。 その時々で描く場所は自由でしたが、近藤が描いた線や色が染みたーーもしくは透けた裏面に、そのできた模様をガイドにしてに木村さんが描く、というパターンが多かったように思います。このやりとりが往復書簡のように何日も繰り返されました。描き進めていくと、下の層に染みた絵具や、シーツを折り返すときに着いた絵具がデカルコマニーのように転写されて、よく見ると、同じイメージが違う場所に発見できるのではないかと思います。ちなみに、ひと区画描く際は、その面のみで絵画として成立することが意識されています。
 そうやって全体に絵が描かれた状態のシーツを洗剤や漂白剤を用いて洗濯しました。その際、堅牢な油彩は比較的残り、水性の日本画材はかなり落ちました。乾かしてアイロンをかけ、今度は折り方を変えて、再度絵を描きました。その後、また洗濯をし、乾かしてアイロンをかけ、更に描いたものが、この作品です。
 奥の白い方の布は、絵を描くための下地処理をして、下から順に、近藤→木村の順に線を引きました。
 最終的にどのような作品になるのかはあまり意識せずに制作を進めたため、ぼくたちも展示をしてみて初めて作品と出会いました。ですので、どのような作品を作ったのか、まだしっかりと把握はできていなくて、ユラユラと揺れている状態です。木村さんはどう感じているでしょうか?
 
 更に奥の壁に引っかかっている一対の絵画は、2015年に国分寺のギャラリーswitch pointで発表した作品です。過去作と新作が字義どおり重なっています。
 更に更に、この布が垂れ下がったイメージは、 2012年にこの壁に展示されていた渡辺泰子さんの作品《Dear Snark》(「虹の彼方」展にて)から来ています。壁からダラリと垂れ下がったフェルトでできた大きな白紙の海図がとても印象的で、奇遇にも今回同じ壁を使うことになり、まず最初にその残像を下敷きにすることから、ぼくたちの作品制作は始まりました。

 ちなみに、タイトルの《画家のサイレンスの部分》ですが、これは、夜な夜などのような作品にしようかと会話をしていたとき、机の横の書棚にあった、瀧口修造の画家に関するエッセイ集『画家の沈黙の部分』から来ています。なんとなくこの共作にフィットするのではないかと思い、木村さんに提案したら、「ちょっと硬い」と言われ、彼女が「沈黙」を「サイレンス」に変えました。ちょっと間抜けな感じですが、それゆえの風通しの良さがあるように思えて気に入っています。

 最後に、今回の展覧会を見渡して実感したのは、絵画の「強さ」でした。木枠やパネルにキャンバスがキッチリと固定され、その画面上に、堅牢なアクリル絵具だったり油彩で描かれた絵画は、これから先も変化せず、このままのイメージを湛えて100年後も見られているのだろう、と想像させるような強固なものに思えましたし、更に言えば、この展覧会の少し前に完成したものではなくて、あたかももっともっと前から存在していた、というような印象さえもちました。それは、絵画という制度の歴史の積み重ねも関係していると思います。ただ、そうした絵画の強さや確かさはもしかすると鑑賞者にある程度の緊張を強いるかもしれません。ですので、展示室の中央付近に位置しているこの作品が、ちょっとした息抜きに、もしくは展示室に入り込んだ隙間風のような存在になっていればと思うのです。

それでは、木村さん、引き続きよろしくお願いします!

近藤恵介 ’18.1.21