2020年4月15日水曜日

中止になったトークイベントについて

3月28日に予定していたトークイベント「あっけない絵画、だったのか?—作品の被災から「卓上の絵画」を考える」は新型コロナウィルスの影響で中止となりました。ギャラリーとも話し合いを重ねましたが、今回ばかりは仕方ないように思います。

昨年10月の台風19号による大雨で収蔵庫が水没した川崎市市民ミュージアムには、2013年の冨井大裕さんとの2人展に出品した作品がほとんどまるごと(1点を除いて)所蔵されています。近藤の絵画が3点、冨井さんとの共作が4点、それらの作品が水没しました。1点はそれほど濡れなかったようですが、その他は応急処置が終わったところ、とのこと。まだ作品の様子は見れていないのですが、そもそも支持体が紙だし、共作の方は紙の脆弱さをそのまま露呈させるような構造を持っていて、それなりの状態にはなっているはずです。(絵具、残っているかな?)

ただ自作に限っていえば、汚損、破損それ自体はそれほど気になっていなくて、生きている作家なので、再制作でも、修復でも何でも可能で。さらにいえば、ぼくの作品はその「弱さ」こそが制作の根本にあって、紙を裏打ちして、仮張りにかけて伸ばし、彩色し、その間も濡れて乾いてを繰り返し、その後の装潢やパネルへの張り込みなど、常に状態を変えることそのものがテーマでもある。なので、自然にシミができたり、ときには破れたりすることは、時間が加筆したことで、むしろポジティブに受け止めています——自作に限っては。

で、そのことはそのまま「卓上の絵画」のテーマとも重なるので、水没からこの展覧会の会場で考えられることは沢山あったはずです。作品の被災がテーマのトークがこんな形で中止になるのは、何らかの因果を考えてもみたくなりますが……そんなにシリアスに考えても仕方ないし。

市民ミュージアムの佐藤さんとは、近代の「日本画」のあり方——それも素描を踏まえた制作の過程を、解釈しなおし、そのことから新しい絵画の方法を提案し(その一端は会場での配布資料の「ブレズレユレ」に書きました)、安田靫彦(市民ミュージアムには靫彦のコレクションが多くあって、作品の状態が気になる……)の素描などを踏まえてお話しするのを楽しみにしていました。
井さんには、「卓上〜」の企画段階からいろいろと相談しながらプランを固め、そして春展には参加してもらい、トークもして、そしてようやく今回のひとまず着地した展覧会場でお話しできる!と思っていたので、最後の重要なピースが失われたような気がしています、

あー、残念……という感じですが、このトークはまた改めて設定し直そうと思います。そのときにはぜひお越しください。

*写真は2013年の市民ミュージアムでの展覧会「あっけない絵画、明快な彫刻<再展示>」の様子(撮影:柳場大)